「analog」に収録されている
「大切な日々」という曲。
初めて聴いたのはアルバム発売記念イベント。
びっくりした。
歌詞が私の心境にドンピシャだったから。
社会人になってからずっと、事務職をしてきた私が、もうすぐ30歳を迎えるという時に突如、まったく違う仕事をしたくなった。
そして思いきって入った会社での仕事は、すべてが初めての経験で、目新しくて、知識を重ねていくのも、お客様に接するのも、楽しくて仕方なかった。
もともと憧れていた分野だったから、なおのことだった。
そうして、どんどんその仕事にのめり込んでいった。
仕事中はもちろんで、それ以外の、仕事を終えて家に帰るときや、朝目覚めて身支度をする時、休みの日でも、常にその時抱えている仕事のことをずっと考えていた。
そうしていつの間にかそれは責任感という名のものに変わっていった。
アルバイト雇用なのに、仕事が終わらないからという理由で、朝は2時間早く出社することも、夜も終電まで残ることもあった。
でもそれを会社は認めず、早出や残業手当は一切つかなかった。
けれど、私はそれでもいいと思っていた。
体が疲れていても栄養ドリンクを飲んでごまかし、時にクレームを受けても解決しお礼を言われるとすべてが吹っ飛んだ。
その頃の私はまだ、幸せだと思っていた。
そうして3年が過ぎた頃、蓄積された疲労が私の脳を蝕みはじめた。
クレーム対応でお客様のもとに向かう時や、ヒステリーな上司に怒鳴られた帰り道に、通りがかったビルを見上げて、
このビルは高いから、屋上から落ちたら死ねるだろうなぁ。そうしたら楽になるかな。
と、思うようになった。
不思議なことに、お昼ごはん何食べようかなとか、この服買おうかなとか、日常で普通に思うことと同じ感覚でそう思った。
怖さというものは全く無かった。
でも、その後で決まって夫の顔が浮かび、もしも私が死んだら彼は悲しむだろうと思って、どうしたらいいか分からなくなって夜道で一人泣いたりもした。
時には夫の前で泣き叫ぶこともあった。
意味不明なヒステリーを起こしたりもした。
その頃の私の頭の中には、何度も不思議な映像が流れた。
決して開かない分厚い扉で塞がれた空間の中に私一人だけがいて、向こう側にいる夫や同僚に扉を開けてほしくて、大きな声で叫び、何度も何度も扉を叩くのに、まったく誰も気付いてくれない。そんな映像。
いま思うと、あの頃の私は孤独だった。
それでも、朝が来ればいつものように当たり前のことのように会社へ行った。
お客様がくれば笑顔で対応していたし、感謝されると心が痺れるほどありがたいと思っていた。
そんな状態が半年続いた頃、とどめを刺すような出来事が起こった。
よく張りつめていた糸が切れたという表現を耳にするけど、私の場合は違った。
その時、心の中で何かがブワァーっとものすごい勢いで広がっていった。テーブルに置いたコップから、入っていた中身がダバーっとこぼれてどこまでも広がっていくような感覚だった。
そうして私は、まるごと愛していたはずの、その仕事を辞めた。
転職を快諾してくれた上、最後どうしようもなく追い詰められた時、まるで正義のヒーローみたいに私を助けてくれた夫には、感謝してもしきれない。
「大切な日々」を聴くまで、私は心のどこかにずっとわだかまりみたいなものがあった。
大好きだったその仕事を辞めたことは間違いじゃなかったのかと。 頭では解っていても、心がいまいち付いていっていないような。
でも、これでよかったんだと、
やっと、ようやく私の心が頷いてくれた気がした。
こんなにも素晴らしい歌に出会えた事に感謝して、とても大事に聴いています。
またしても
米倉利紀さん、どうもありがとうございます。